国立競技場建設プロジェクト

国家プロジェクトを先導し、歴史に残る仕事を完遂する。

#05作業所長

八須 智紀

TOMONORI HACHISU

工学部 建築学科 卒/1993年入社

群馬県出身。趣味は旅行や街歩きで心身ともに癒せる場所に行くことが好き。最近は思うように行けていないが、時間ができたらゆっくりと海外旅行に出かけたい。

※内容は取材当時のものです

八須 智紀の画像

八須 智紀

TOMONORI HACHISU

工学部 建築学科 卒/1993年入社

群馬県出身。趣味は旅行や街歩きで心身ともに癒せる場所に行くことが好き。最近は思うように行けていないが、時間ができたらゆっくりと海外旅行に出かけたい。

※内容は取材当時のものです

PHASE01

大成建設の凄みを、全世界へ発信するために

2015年7月に白紙撤回された旧案も含めると、八須が国立競技場建設に携わったのはおよそ7年間。旧案の時代から作業所長として関わる八須には、このプロジェクトを成功させなければならない理由があった。

「約60年前、旧国立競技場の建設を当社が担ったという経緯があり、私自身、この案件に携わることを熱望していました。白紙撤回となった旧案の頃から作業所長を拝命し、新案でも作業所長として携わることになり、大変光栄でした。一方で本件は、世界中から注目を浴びる国家プロジェクトです。当社の技術力・組織力を全世界に発信し、国内外から確固たる信頼と評価を得るためには、この工事を必ず完遂しなければならない。そんな使命感でプロジェクトに臨みました」

現計画で提案した工期は、2016年1月から竣工となる2019年11月までの約4年。膨大な協議を伴う設計の完了まで約1年を要し、施工に割くことができる期間は約3年だ。これほどの規模を誇るプロジェクトとしては、異例の速さで建物を完成させるため、要求水準を満たしつつ、厳格なスケジュールとコストのコントロールを行い、プロジェクトを進捗させることが求められた。八須は企業体の幹部としてそうしたマネジメントを司り、巨大プロジェクトの陣頭指揮を取った。

「建設ラッシュによる労働力・資機材の不足は、ある程度予想されていましたので、設計段階から施工知見をフィードバックさせ、省力化できる工法を取り入れたり、各工種の分割発注や、資機材労務計画を綿密に構築したりと、工事着手前から対応策を練っていました。ただ、実際の工事に小さなトラブルはつきものです。問題が発生したときに、いかに工事の流れを止めることなく、タイムリーな判断と対処をしていくかが重要でした。そうした中で、実際に現場で働く“職人”の力を最大限に引き出し、信頼関係を構築し、協働する事が大きなカギとなりました」

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PHASE02

チームワークで難局に挑む

ピーク時には1日約2,800名の作業員が従事した本プロジェクト。事務長の不二門が痛感していたように、組織は大きくなればなるほど、意志の疎通が困難になる。しかし、厳しいスケジュールを乗り越えていくためには、大成建設の工事担当者のみならず、職人同士の連携が必要不可欠だ。現場が掲げたのは「職人たちが働きやすい職場づくり」だった。

「各専門工事業者や職長が集まるコミュニケーションの場を設けるだけでなく、メッセージアプリでタイムリーに双方向の情報共有を行いました。そこであがってきた課題や問題に対し、迅速に解決策や方向性を打ち出し、それをまた全員に周知することで、“問題の放置を無くす努力“をする姿勢を示し、工事担当者や職長が主体性を持って取り組めるような現場を心がけました。そうしたなかでトラブルやイレギュラーな事態にも柔軟に対応できる組織になっていったと思います」

一方で、休憩施設や衛生環境など、働く環境を整備することも大きな課題であった。八須は、職人が利用しやすく、快適に心身の休息が取れる仮設施設が重要であると考え、施工の節目毎に綿密に計画した。

「品質、工程を高いレベルで保つためには、職人さんのモチベーション維持が欠かせません。彼らの意見を積極的に取り入れ、適宜、計画内容を見直しながら、快適な職場環境の整備を実施しました。さらには、職人さん全員が毎日健康で働けるように、現場内に看護師が常駐した『健康相談室』を設置するなど、健康管理の促進にも注力しました」

また、工事期間中に、台風や大雪など悪天候による計画の見直しを何度も迫られたが、その都度、臨機応変に対応できたのは、職人たちが高いモチベーションで工事に臨むことができた賜物だろう。建設において最も重要なことは、工事に携わる全員のチームワークであると、八須は改めて実感した。

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PHASE03

建設の素晴らしさを伝え、価値向上に貢献したい

竣工間際、スタンド上部から完成が近づくスタジアムを眺めていたとき、八須は不思議な感覚を覚えていた。旧案の頃から数えて約7年、作業所長として毎日、国立競技場と向き合ってきた。もうすぐその役目を終えることになる。その事実がにわかに信じがたかった。

「私のキャリアにおいて最も長い期間携わったプロジェクトでした。毎日のようにスタジアムを見ていたので、竣工が近づいてきてもあまり実感が湧かなかったんです。ただ、その後に催されたイベントで国立競技場に行ったときにようやく、『これほどの建物に自分が携わったのか』と、成し遂げた仕事の大きさに胸がいっぱいになりました。生涯で一度きりの“歴史に残る仕事”は、私の人生の宝物です」

国立競技場のプロジェクトからは離れたものの、八須の心には新たな使命感が生まれている。それは大成建設のみならず、建設業界全体に対する熱い想いである。

「建物という大きな成果物を自分の手で残し、社会に貢献できるのは、建設業でしか味わうことのできない素晴らしいことだと思います。私は建設が大好きですので、そうした建設業ならではの価値を伝え、次世代の担い手を育てることが大切だと考えています。そして更なる大きなプロジェクトにチャレンジしてみたいですね」

建設が大好き――。そんな純粋な心が、歴史に残るビッグプロジェクトを成功へと導いたのかもしれない。